【元自衛官が語る】夜間演習で全力逃走した話|リアルな訓練エピソード

自衛隊時代の話

自衛隊には「斥候(せっこう)」という訓練がある。少人数で編成されたチームが、敵陣地に忍び込んで偵察や攻撃を行い、帰還するというものだ。当然、銃を持って行動する。実弾ではなく空砲(くうほう)だが、撃たれたら本気でビビる、段ボールの束など余裕で貫通してしまう威力なのだ。

夜の闇の中、敵陣地へ

その日の訓練は夜間の斥候だった。数名でチームを組み、敵陣地まで移動。闇の中を慎重に進んで、目標地点で空砲を撃ち込む。ここまでは予定通りだった。

問題はその後である。

見つかった。全力で逃げた(MGSの音はしなかったがw)

**分かる人にはわかるのだが・・・・そういうゲームがあるのだ**

攻撃後、離脱しようとしたところで敵に見つかってしまった。仲間4人で全力ダッシュ。銃を持ったまま、とにかく走る。ところが追いかけてくるのが持久走の選手みたいな人で、とんでもなく速いしかも装備なし!どこまで逃げても、振り返るとまだ来る逃げども逃げども追いかけてくる。

まぁなんとか無事に逃げ切って野営地に着いた時は、身も心もクタクタだった。本当に生きた心地がしなかったのを今も思い出す!ほぼ全員半泣きだった。

空砲でも、撃たれたら本気で怖い

先に「実弾ではなく空砲」と書いたが、これを「じゃあ安全やん」と思われるとおもうのだが・・・舐めてもらっては困る空砲といえども立派な武器なのだ!至近距離で当たると手のひらくらいは貫通するほどの威力を秘めているのだ。

空砲というのは弾頭が入っていない弾で、先にも書いたが当たったら段ボール5枚はぶち抜く威力があり、まあまあの怪我はする。そして音だけは本物と同じである。というより、夜の山の中では本物より大きく聞こえる。

静まり返った闇の中で、いきなり至近距離で撃たれる。頭では「空砲だ」と分かっていても、体が勝手に跳ねる。訓練だと分かっていても、あの音だけは何度やっても慣れなかった。

だから、相手もマジで追いかけてきたんだきっと!

夜の山は、想像の10倍暗い

夜間の斥候でもうひとつ書いておきたいのが、山の夜の暗さである。

街の夜とはまったく別物だ。街には必ずどこかに明かりがある。だが演習で入るような山の中には、それが一切ない。目の前に手をかざしても、輪郭がぼんやり分かるかどうかである。

だから頼りになるのは目ではなく、音と気配になる。落ち葉を踏む音、枝が揺れる音、前を歩く仲間の呼吸。人間の感覚というのは不思議なもので、明かりを取り上げられると、残った感覚が勝手に鋭くなる。

ちなみに、目が暗さに慣れるにはそれなりに時間がかかる。慣れかけたところで誰かがライトをつけると、それだけで全部リセットされる。だから夜間行動では明かりを厳しく制限される。理屈が分かると、あの厳しさにも意味があったのだと今は思う。

なぜ、そこまでして捕まりたくなかったのか

「捕まったら本部まで連行される」と書いたが、これがどういうことか補足しておく。

同じ自衛隊員同士なので、殴られるとか、そういう無茶はされない。それでも嫌なのだ。捕まった人間が連行されて、そこに漂うあの空気。責められるわけでもないのに、いたたまれない。子どもの頃、悪いことをして職員室に連れて行かれた時のあの感じに近い。あくまで敵の陣地内であるので、動物園の檻の中の動物のようなものだ。相手の視線が痛い、それに最後は敵の車で原隊までの送迎つきである。帰ったときの皆のアノ目つき!「何やってんねんお前ら!」的なやつ、考えただけで身震いする。絶対嫌だろ!

だから逃げた。銃を担いだまま、4キロ。半ベソで。今思えばバカバカしい話だが、あの時はほんとマジだった。

暗闇の経験だけは、今も残っている

こんな訓練が今の生活に役立つことなど、まずない。銃を持って逃げる機会は、幸いなことに一度もなかった。

ただひとつだけ、残っているものがある。暗闇でパニックにならなくなったことだ。停電しても、真っ暗な場所でも、とりあえず落ち着いて足元を確かめる癖がついた。慌てて動くと転ぶ、というのを体で覚えているからだ。災害の備えとしては、案外バカにならんと思う。人は知らんけど、自分はそう思っている。

駐屯地の怪談話

暗闇とか夜間の話しついでで、これは完全に余談だが、駐屯地内で霊的なものが目撃されたという話はちょくちょくあった。私自身は見たことがない。正直あまり信じてもいない。ただ、同じ部隊の何人かは「見た」と言っていた。と言うか「見えた」といったほうが正解か?

電話ボックスは駐屯地に4台設置されているのだが、なぜか2台目のボックスに、上半身は見えないのに足だけが出ていたという不思議な話があったり、その他もうあまり覚えていないがいろいろ噂があったようだ。古い駐屯地にはそういう話がつきものなのかもしれない。信じるかどうかはあなた次第である。

訓練は基本的にきついが、振り返ると笑い話になるエピソードが多いのも事実だ。銃を持って全力で4キロ逃げた経験なんて、普通の生活では絶対にできない。こういうリアルな体験があるからこそ、自衛隊という環境は独特で、面白いんだと思う。

今日の一句

   空砲は 上に打つべき 空だけに

                     それではまた!

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