自衛隊の最大の敵は、敵国でも訓練でもなく「水虫」である

自衛隊の話をしていると、たまに読者の方から「一番きつかったのは何ですか?」と聞かれることがある。訓練?気候?人間関係?——いろいろ答えようはあるのだが、私が真面目に一番の敵として挙げたいのは、実はもっと地味なものだ。

それは水虫である。

「え、そんなことで?」と笑われるかもしれない。だが、これは冗談抜きに深刻な話である。私の体感で言うと、自衛官のほぼ全員が水虫に悩まされていた。訓練より、寒さより、飯より、水虫の方がキツかったと言う先輩もいたくらいだ。今日はその「自衛隊と水虫」という、あまり表に出ない戦いの記録を書いてみようと思う。

原因は明白——半長靴を一日中履く生活

なぜ自衛官はほぼ全員が水虫になるのか。理由ははっきりしている。

半長靴と呼ばれる、くるぶしより上まである革の靴。これを一日中履いているからだ。今の自衛官がどうかは分からないが、私たちの時代の半長靴は、底が厚くて丈夫な代わりに、通気性は絶望的だった。

朝の点呼から夜の点呼まで、ずっとこの靴の中に足が入っている。訓練で走れば汗をかき、雨が降れば濡れ、演習で川を渡れば水が入る。そして乾く暇もなく、また翌日も同じ靴を履く。足にとってこれ以上の悪環境は、なかなか作れないと思う。

水虫菌にとってはパラダイスである。湿気、温度、栄養——三拍子揃った完璧な繁殖環境が、自衛官の足の中には常に用意されている。そりゃあ増える。

新兵がやらかす罠——脱衣場の足ふきマット

そしてもう一つ、私が自衛隊に入って最初に引っかかった罠がある。それがお風呂場の脱衣場に置いてある足ふきマットである。

普通、風呂上がりに足を拭くのは当たり前のことだ。マットが置いてあれば、そこで足をキュッと拭いて出る。私も入隊直後、何の疑いもなくそうしていた。

だが、あれは絶対にやってはいけない行為だった。あの足ふきマット、実は水虫菌の温床なのである。何十人もの隊員が、水虫のついた足で毎日拭いていくのだから、当然そうなる。

先輩たちはみんな知っていて、あのマットを踏まない。だが新兵は誰も教えてくれないから、みんな踏む。そして立派に水虫の足を完成させる。私もその一人だった。

「そういえば、あのマット踏むなよ」——後になって同期がボソッと言うのを聞いた時、時既に遅しである。私の足には、しっかりと水虫が住み着いていた。

「痒い」を超えた領域の話

初期の水虫は、正直それほど深刻ではない。ただ痒いだけである。指の間がジンジンする程度で、我慢すればどうにかなる。

だが自衛隊生活が長くなると、水虫もプロフェッショナル化していく。初心者の水虫から、ベテランの水虫へと進化するのだ。

進化した水虫は、もう痒いなんてもんじゃない。足の指と指の間の皮を、剥がして洗いたい——そういう衝動に駆られるレベルになる。実際に爪で掻きむしって、皮が剥けて赤くジュクジュクになった隊員も何人も見た。中には足の指に穴が開いたような状態になっている先輩もいた。あそこまで行くと、もう病気である。

「痒み」というのは不思議な感覚で、掻けば掻くほど広がる。掻いた指で他の場所を触れば、そこにも水虫菌が移る。だから最初は片足の指の間だけだったのが、気づいたら足の裏全体、そして反対の足にまで広がっている。負のスパイラルである。

ゲンタシンの10倍強い薬をもらいに医務室へ

あまりの痒さに耐えかねて、私は医務室に行った。診察を受けて処方されたのは、聞いたこともない薬だった。医務官が説明してくれた。

「これはゲンタシンの10倍ぐらい強い薬だから、よく塗ってね」

ゲンタシンというのは、当時よく使われていた市販に近い塗り薬である。今の若い人には通じない例えだと思うが、私たちの世代なら「ああ、あれか」と分かる薬だ。その10倍の強さと言われて、私は素直に「これは効きそうだ」と思った。

実際、塗ればある程度は効く。痒みは治まる。だが——根本的には治らない。塗って一時的に良くなっても、また半長靴を履いて訓練に出れば、翌日にはまた水虫が復活している。イタチごっこである。

みんな試した民間療法——ハブ酒まで登場

正規の薬で治らないとなると、隊員たちはいろんな民間療法を試し始める。

「五本指ソックスがいい」と聞けば、みんなが五本指ソックスを買う。「通気性のいい中敷きに変えろ」と言われれば、中敷きを取り替える。「木酢液を薄めて足に塗れ」という話も聞いた。

中でも忘れられないのが、ある先輩が試したハブ酒である。「沖縄のハブ酒を足につけると、水虫が一発で治る」という情報を、どこからか仕入れてきた。わざわざ沖縄から取り寄せて、真剣に足につけていた。

結果?——効かなかった。当たり前である。だが真剣に試している先輩の姿は、それだけ水虫が深刻な悩みだったことを物語っていた。効くと言われれば、藁にもすがる思いで試す。それが自衛官と水虫の関係である。

短靴に履き替える時間の、束の間の解放感

自衛隊には、たまに短靴——通常のスニーカーや運動靴のようなもの——を履く時間がある。中隊のレクリエーション、体育の時間、休日の外出。そういう時は半長靴を脱いで、通気性のある靴に履き替えられる。

あの瞬間の解放感といったら、なかった。

足に風が通る。汗が乾く。指の間がスースーする。「ああ、俺は今、水虫から解放されている」と、心底そう感じた。

ただし、これはあくまで気分だけの話である。実際には水虫菌はしっかり足に住み着いているので、また半長靴を履けば元通りだ。それでも、あの短靴の時間は本当にありがたかった。人間、状況が悪ければ悪いほど、小さな解放が大きな喜びになる。

結論:自衛隊にいる限り、水虫は治らない

結論から言うと、自衛隊にいる限り、水虫は基本的に治らない。これはもう職業病である。

治すには、根本原因である「一日中革靴を履く生活」から離れないといけない。だが職業として自衛官をやっている以上、それは無理だ。だから薬でごまかしながら、痒さと戦いながら、水虫と共存していくしかない。

私が水虫からようやく解放されたのは、除隊してしばらく経ってからのことだった。革靴を毎日履かなくなり、足を太陽に当てる時間が増え、家でサンダルで過ごすようになって、ようやく水虫は消えていった。「ああ、これが健康な足の状態か」と、久しぶりに思い出したのを覚えている。

オマケ:自衛官の足の匂いは、この世のものではない

ついでに書いておくと、水虫と並んで自衛官の足には、もう一つ深刻な問題がある。匂いである。

1日中革靴を履いて汗と湿気にまみれた足が、どんな匂いを発するか——想像してもらいたい。宿舎に帰ってきて靴を脱いだ瞬間、部屋の空気が変わる。あれはこの世の匂いではないと本気で思った。

発酵臭のような、何かが腐ったような、いや、それを超えた「自衛官の足だけが出せる独自の匂い」。同じ班の中で誰かが靴を脱ぐと、全員が一斉に「うわっ」と顔をしかめる。だが自分もまた同じ匂いを発しているので、お互い様である。

今考えると、あの匂いも一種の「戦友の証」だったのかもしれない。そう思わないとやってられない。

今の自衛官はどうなんだろう

私が現役だった頃から、もうずいぶんと時間が経った。今の半長靴はどうなっているのか、通気性は改善されているのか、水虫対策の薬は進歩しているのか——正直、よく分からない。

もし今も現役の自衛官が私のブログを読んでくれているなら、コメントで教えてほしい。「今も水虫は職業病ですか?」と。答えが「はい」なら、私は少しだけ安心する。「いいえ、今は解決してます」なら、時代は進歩したのだと嬉しく思う。

それではまた、次回。

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